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東京高等裁判所 昭和46年(行コ)27号 判決 1976年4月28日

控訴人(原告) 旭礦末資料合資会社

被控訴人(被告) 仙台通商産業局長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。控訴人が昭和二六年二月二二日被控訴人に対し、福島県田村郡大越町大字上大越字欠入地内の原判決添付の別紙図面記載の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)、(H)および(A)の各点を順次に結ぶ直線で囲まれた区域を含む地域についてした鉱業権設定の出願につき、被控訴人が昭和三九年三月四日なした右に特定の区域に関する不許可処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の関係は、次に訂正、付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(一)  原判決二枚目裏七行目および一一行目、三枚目表六行目、七行目および八行目、四枚目表八行目および一一行目、同裏一一行目、五枚目表三行目および七行目、同裏二行目、三行目および六行目、六枚目表七行目、七枚目表五行目、一〇行目および一一行目、同裏二行目、八行目および一〇行目、八枚目表六行目および九行目、同裏三行目の「堀」を、いずれも「掘」と、六枚目表七行目の「転貸」を「転借」と訂正する。

(二)  証拠関係<省略>

理由

一  当裁判所も、当審における新たな証拠調の結果をしんしやくしても、控訴人の本訴請求は失当であると判断するが、その理由は、次に訂正、付加するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。

(一)  原判決一〇枚目裏二行目、三行目、六行目および一一行目、一一枚目表二行目、六行目および九行目、一四枚目裏六行目および七行目、一五枚目表一行目および二行目の「堀」はいずれも「掘」と訂正する。

(二)  原判決一一枚目裏六行目の「がなく、」を「がない。」と改め、同行目の「成立に争いのない乙第二号証の五」から一四枚目裏一行目までを削除し、そのあとに次のとおり挿入する。

「そして、いずれも成立に争いのない乙第二号証の五、第九号証の一ないし六、証人西田憲夫(当審)、同鹿又炊高(原審および当審)、同白土謙(原審および当審)、同佐瀬四郎(原審および当審第一回)の各証言によれば、原告および大滝根石材はいずれも鉱物、石材等の掘採ならびに加工等を業とするものであり、肥料用炭酸カルシウム製造のため、昭和一八年三月頃郡山営林署長に右国有林野内の未採掘石灰石の払下げを申請したこと、同営林署長は牧草組合の土地使用権との関係ならびに原告および大滝根石材の各事業区域を調整する必要を認め、原告および大滝根石材に牧草組合を加えた三者に相互の折衝をさせた結果、昭和一八年三月二四日右三者の間において、期間を五年とする協定が成立したこと、右協定は、原告と牧草組合との間、大滝根石材と牧草組合との間の各契約書ならびに右三者間の覚書にまとめられたこと、右三者間の協定は、昭和二三年三月二三日、期間満了後更に五年の期間をもつて、更新されたことが認められる。

原告は、右協定は原告および大滝根石材がそれぞれ別個に牧草組合と結んだ契約にすぎない旨主張するが、右に認定した協定成立の経緯、前記乙第二号証の五中に存する右各契約書、覚書および期間更新の際の協定書の内容、形式から考えてみても、原告の右主張は認めがたいのみならず、右乙第二号証の五、成立に争いのない乙第一三号証の一ないし一〇によると、原告は、昭和二三年五月の石灰石の払下申請に当たり、又同二六年三月の採掘権の設定の出願に際し、いずれも、郡山営林署長に対し右協定の各契約書および覚書を一括提出してその手続をしていることが認められ、この事実に徴しても、右協定が牧草組合と原告、大滝根石材との三者間において成立したものと認めるのが相当であり、証人小林孝夫(原審および当審)の証言中以上の認定に反する部分は措信しがたい。

そこで、右三者協定の内容について検討する。

前出乙第二号証の五、乙第九号証の一ないし六、成立に争いのない乙第一〇号証、証人鹿又炊高(原審および当審)同白土謙(原審および当審)、同佐瀬四郎(原審および当審第一回)の各証言によれば、右三者間の協定における原告および大滝根石材の各事業区域の境界は、郡山営林署員と原告、大滝根石材、牧草組合の各関係者が一緒に現地に赴き、当時から存していた欅のある原判決添付図面の(I)点を基礎として定めたことが認められ、証人小林孝夫(原審および当審)の証言中右認定に反する部分は措信しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。そして前掲各証拠(証人佐瀬四郎の証言を除く。)によれば、右協定においては、前記(I)点と石標甲一号標識の地点とを結ぶ直線の東側の区域を原告、西側の区域を大滝根石材の各事業区域とし、原告および大滝根石材の各事業区域内の石灰石の採掘について牧草組合が同意したことが認められる。もつとも、証人小林孝夫(原審)、同白土謙(原審)、同佐瀬四郎(原審および当審第一、二回)の各証言によれば、甲一号標識なる石標は当時、右契約書が指示した地点に現実には存在しなかつたことが認められるが、証人西田憲夫(原審)、同鹿又炊高(原審)、同白土謙(原審および当審)、同佐瀬四郎(原審)の各証言によれば、右協定の当事者はいずれも当時石標甲一号標識の存在またはその地点について格別疑いを抱かなかつたことが、さらに前出乙第二号証の五、証人鹿又炊高(原審および当審)の証言によれば、むしろ右協定の当事者はいずれも当時、右欅の南側において国有林野と民有地との境界線、国有林野と採草地との境界線および民有地と採草地との境界線が交差する地点に石標甲一号標識が存在すべきものと認識していたことがそれぞれ認められ、したがつて、当時現実に甲一号標識なる石標は存在していなかつたが、石標甲一号標識は特定の箇所を表示するものとして関係者間において認識されていたのであるから、右石標甲一号標識の表示をもつて場所の特定に欠けるところがあるとすることはできない。証人佐瀬四郎(原審および当審第一、二回)の証言中、右協定の際石標甲一号標識の存在する地点として示されたのは右欅から嶺線に向つてほぼ九〇度の方向に当る原判決添付図面記載の(C)点付近である旨の供述部分はたやすく措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。したがつて、右協定の当事者は右各境界線の交差する地点と欅の地点とを結ぶ直線をもつて原告および大滝根石材の各事業区域の境界としたものであると認めるのが相当である。

そして、成立に争いのない乙第六号証、証人西田憲夫(原審)の証言および検証の結果(原審および当審)ならびに前記乙第二号証の五中に存する三者協定の各契約書に添付された図面の記載に鑑みれば、前記国有地、民有地および採草地の相互の各境界線の交差点は原判決添付図面記載の(B)点であることが認められるから、同地点と欅の地点とを結んだ直線を右協定による原告および大滝根石材の各事業区域の境界であると認めるほかはない。

そして、前出乙第二号証の五、乙第九号証の一ないし一〇、原本の存在および成立に争いのない甲第一号証、成立に争いのない甲第二号証、乙第二号証の一ないし三、同号証の四の一、二、同第四号証、同第五号証の一、二、証人小林孝夫(後記措信しない部分を除く。)、同西田憲夫(原審および当審)、同白土謙(原審および当審)、同佐瀬四郎(原審および当審第一、二回、但し一部)の各証言を綜合すると、原告および大滝根石材はその後郡山営林署長から右協定による事業区域内の石灰石の売払いを受け(ただし原告は、代表者佐瀬辰三名義で払下げを受けたことがあるほか、大滝根石材は大部分代表者宗像利吉名義で払下げを受けていた)、新法施行日の昭和二六年一月三一日まで原告は右区域の境界線寄りを、また大滝根石材はその北側部分を各採掘していたこと、ただ、当時、石灰石は土地の一部とみられ、いまだ法定鉱物とされていなかつたため、その採掘事業を行うにはこれを国有林野産物として毎年一定範囲について売払いを受けるという形式を採るほかなく、原告および大滝根石材も右事業区域内で継続事業として石灰石を掘採するには年度ごとに、そのつど具体的に指定された約〇・〇二ヘクタールの掘採範囲の石灰石の売払いを受けなければならなかつたが、実際には、資金・設備の関係上採掘事業の継続性を考慮され、毎年継続的に売払いを受けていたこと、なお、その売払いにあたつては右協定による事業区域を尊重して具体的な掘採範囲を決められていたものであることが認められ、証人佐瀬四郎(原審および当審第一、二回)同小林孝夫(原審および当審)の証言中右認定に反する供述部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

原告は、大滝根石材は石灰石の払下げを受けたことがない旨主張するが、前掲各証拠によれば、大滝根石材は大半当時の代表者宗像利吉個人の名義で払下げを受けていたこと、しかるに宗像利吉は個人では石灰石等の掘採事業を営んでいたことがないことが認められ、かつ、すでに認定した前記三者協定の成立およびその後における大滝根石材の採掘事業の継続的実施等の事情に鑑みると、石灰石の払下げは、実際上大滝根石材においてこれを受けていたものと認めるのが相当であり、したがつて、この点に関する原告の主張も認められない。」

(三)  原判決一四枚目裏三行目から四行目にかけての「国有林野産物売払規則(大正四年七月二四日農商務省令第一三号)」を「旧国有林野産物売払規則(大正四年七月二四日農商務省令第一三号、昭和二五年廃止)」と改める。

(四)  原判決一五枚目表五行目の「定められ」を「定められた」と改め、同六行目の「限られるものと解する」を「限られる反面、その事業区域は施行法五条により鉱業権設定の出願に優先権の認められる掘採区域に該当すると解する」と改める。

二  以上の次第で、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものであつて、これと同旨の原判決は正当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九五条を適用し、主文のとおり、判決する。

(裁判官 川島一郎 小堀勇 奈良次郎)

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